英国の夢 ラファエル前派展へ


英国の夢 ラファエロ前派展
ウォーターハウス「デカメロン」

公式サイト:英国の夢 ラファエル前派展
2015.12.22-2016.3.6. Bunkamura ザ・ミュージアム

先週、リバプール国立美術館所蔵のラファエル前派展へ行ってきました。リバプール国立美術館とは、市内にある、それぞれ名前の違う3つの美術館の総称のようです。さすが産業革命で栄えた都市だけあり、文化の充実度が感じられます。「またラファエル前派見に行くの?」と家族に言われましたが -_-; 数年前も確かにラファエル前派の展覧会があり、芸大の夏目漱石展でも、ラファエル前派の作品が数品来日していましたし、人気の程を伺わせます。

ラファエル前派ーこのBritish Schoolの美の世界は、自分の言葉でいかに形容すべきなのか、適切な表現がなかなか見つからないのですが、いい意味で、えぐいまでの究極の神話的な美の世界、と言ったら怒られますかね。。なんだか、見終えた頃にはすっかり食傷気味になる人もいるのではないか?という程の、ぐいぐい来る美の世界、、(ついつい観てしまう何かがあるように思います)という事にしておきます。

ラファエル前派について、若干まとめてみますと、1848年にホルマン・ハント、J.E.ミレイ、ロセッティらによって結成された英国の芸術同胞団(brotherhood)で、英国ロイヤルアカデミー創始者のヨシュア・レイノルズらにアンチを唱えていました。ラファエルに見られるような、古典的なエレガントさは、マニエリスムによって腐敗させられ、非人間的なものになってしまった、それを押し進めているアカデミーに異議を唱え、15世紀イタリア美術(=中世、初期ルネッサンス)のように、強烈な色使い、複雑な構図、細かいディティールを復興させようという主旨でした。

ハントらによって始まったラファエル前派は、第2世代と言われる1.バーン=ジョーンズ、モリス 2. フレデリック・レイトン、J.フレデリック・ワッツの2グループがあり、さらに20世紀初頭にラファエル前派を復興したともいわれる、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス、タデマの第3世代に大別できるようです。(美術史上、正式に第二、第三世代と言われている訳ではありません。ウォーターハウスに関しては、主題が似ているだけで、アカデミーサイドにいたこともあり、ラファエル前派ではなく、影響を受けただけ、とするべきのようですが、展覧会では、チラシにもウォーターハウスが使用されていました。彼の絵は、近くで観ると、ディティールは微細な程に描きこんであるというよりは、おおらかなタッチですよね。と書いていて、気がつきましたが、英語の展覧会タイトルは、Pre-Raphaelite and Romantic Painting From National Museums Liverpoolですね。つまり、ラファエル前派展ではなく、ラファエル前派とロマン派絵画展ですよね?the Romantic ~でないから違うかしら。)

初期のラファエル前派は、神話が主な題材で、テーマを深く掘り下げて描いていたのですが、次第に、神話の歴史的正確さは薄められ、エロティックさを増して行き、唯美主義的になっていきました。(考古学の始まるところ、芸術は終焉するーO.ワイルド)その唯美的な傾向を表す絵の1つが、「チャールズ・エドワード・ペルジーニ「ドルチェ・ファール・ニエンテ」(甘美なる無為)」(1882頃)でしょうか。


英国の夢 ラファエル前派展
ムーア「夏の夜」
個人的には、西洋の神話や聖書の題材にさほど詳しくない事もあり、神話的な題材が時代とともに、画面上で次第に不正確さを増して行くのを見抜けないのですが、確かに、アルバート・ムーアの「夏の夜」(1890頃)などを見ると、エロスだなと思う訳です。その点、ミレーは別として、ロセッティやハントの描く女性は、造形的には理想化されすぎた女性ではないように思います。学生時代は、ハントの絵は苦手でしたが、最近はけっこういいじゃないかと思いますw ラファエル前派は、世代を超えて、唯美的な側面が影響を与えている点が、日本の琳派に少し似ているなと思った次第です。

コンパクトながら、流れを追う事ができるよい展覧会でした。英国に興味がある方は是非。ポストカード販売も充実していました。3月6日迄です。お早めにどうぞ。