映画:写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと

In No Great Hurry 13 Lessons In Life With SAUL LEITER

公式サイト:写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと
In No Great Hurry 13 Lessons In Life With SAUL LEITER

昨年ユーロスペースで公開された、「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」(2012年英/米合作)を見逃したので、遅ればせながら川崎市アートセンター、アルテリオにて公開していたのを観てきました。ユーロスペースさんは、割引曜日がないのですが、アルテリオでは、木曜は男性千円、金曜は女性千円でお得に鑑賞することができ、少し都心からは離れていますが、おすすめです。

「人生でみつけた○○の事〜」というたぐいの映画の副題じは、いつから定着し始めたのでしょうか。最初は、売れる為の日本語版の勝手なタイトルかと思ったら、違うのですね。もう少し、違う副題でも十分いけるくらいの内容だった、と思うのですが、どうでしょうか。


話は、ドイツの写真関係の出版社であるシュタイデル社が、細かい事情は映画では語られないのですが、NY在住の、元ファッション・フォトグラファーとして活動していた、隠居同然の老写真家、ソール・ライター氏(1923年生まれ)の写真集を2006年に出版したところから、奇跡がおきます。写真集が反響を呼び、2012年にこのドキュメンタリー映画が英国人監督により撮影され、ライターは、翌2013年に亡くなります。(亡くなった部分はエピソードとしては出てきません)この部分だけを抽出すれば、ここ数年はやりの「埋もれていた作家発掘」の1つかな、と思うのですが、例えばヴィヴィアン・マイヤーと全く違う点は、ライター氏は、正式にプロのフォトグラファーであった点で、画家になるべく田舎からNYに出てきて、食べる為に、ファッション・フォトグラファーになったものの、自作の作品は長年撮り続けており、早くは1953年に、E.スタイケンにより、MOMAでの「Always the Young Stranger 」展での展示作家に選ばれていたり、写真集を出す前にも、15回程、個展を開催していたりと、単なる「写真をためこんでいた素人のおじいさん」ではない訳です。しかし、ライター自身の言葉によれば、「ビジネスには向いてなかった」「自分はたいした作家じゃない」とのことで、つまり、自作のプロモートは嫌いで、どこかにマネジメントを依頼するとか、社会的に認知されたい欲望もないまま、たまに個展を開催していただけで、引退後もマンハッタンの日常を撮影し続け、80歳を過ぎ、ひょんなことから写真集を出すことになってしまい、ドキュメント映画も撮影されたと。そして撮影の翌年、亡くなったと。マイペースで生きて、優雅に絵を描いたり(壁にかかっていたのが、彼の作品だと思うのですが、ちょっとだけエドワード・ヴュイヤールを抽象化したような?作品のように思いました。色使いが奇麗でした。)、写真をとったりしているうちに認められ、なかなか見事な、幸福な人生だったのではないでしょうか?

ライターの写真そのものは、映画の中で観た限りでは、どちらかといえば落ち着いた感じのNY界隈のスナップが多く、(ショッキングな事件を探していたマイヤーとは違いますね)絵画的とも言える雰囲気だったと思います。写真集も出ているようですから、機会があればみてみたいです。

Early Color
2006初版のEarly Color

昨年末のヴィヴィアン・マイヤーの映画に続き、写真関連の映画を2本みたことになりますが(ヴィヴィアンの映画感想ブログは書いてないですね。。今年はなるべくブログで鑑賞録を書き続けたいと思います。)、マイヤーの映画の方が、ドキュメント映画としては、狂気の香りがし、大変スリリングでした。ライターのドキュメントは本人出演という貴重な資料的側面はありますが、全体的に地味な感じです。しかし、個人的には、ライターの写真の方が好みかなと思いました。アメリカは広いですし、地方では特に、断捨離とは無縁に生きることができる訳です。こういう、埋もれた作家(ヘンリー・ダーガーも思えばそうですね)の「発見」はこれからも続くのではないでしょうか?しかし、写真の場合は、デジタル化とともに、発見されにくくなっていくかもしれないですね。サルベージの技術も進化していくでしょうけど、データが壊れたらおしまいですしね。それはちょっと残念だなと思います。

写真家ソール・ライター、今度は大阪で公開中だそうです。
Facebookの頁があるようですので、リンクしておきます。