何故抽象画が多いのか?「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展
今から70年ほど前、1950〜60年代に活躍していた女性の美術作家が、歴史の中に埋もれ消えかけていたのを再発見し、評価し直す意義深い展覧会「アンチ・アクション」展へ会期の終わり頃に行くことができました。(話がいきなりそれますが、チケット代金が2千円!びっくりな価格でした。価格高騰が美術館へも押し寄せているんですね・・)
実はこの展覧会、なかなか足が向きませんでした。実は一部の出展作家の作品に割と常日頃から接する機会が多く「もういいかな・・」と思っていたのもありますし、作品がほとんど全て抽象画であるので、お腹いっぱいになりそうだな、なんて偉そうに思ったこともありました。ですが、この展覧会は絶対に歴史的に意味がある行くべき展覧会であることは明白です。事実、やはり行って良かった・・と思いました。
展覧会は、中嶋泉というフェミニズム美術・ジェンダー研究家の1冊の書籍『アンチ・アクション』(2019年)に大きく依るところが大きい展覧会で、アンチ・アクション、というのは、当時流行していたアクション・ペインティングのムーブメントから色々な意味で弾き飛ばされた女性たちの抵抗の軌跡を意味するそうです。
出品作家の名前を見てみましょう。
「赤穴桂子(1924-98)、芥川(間所)紗織(1924-66)、榎本和子(1930-2019)、江見絹子(1923-2015)、草間彌生(1929-)、白髪富士子(1928-2015)、多田美波(1924-2014)、田中敦子(1932-2005)、田中田鶴子(1913-2015)、田部光子(1933-2024)、福島秀子(1927-1997)、宮脇愛子(1929-2014)、毛利眞美(1926-2022)、山崎つる子(1925-2019)」
(上の写真は作家たちの相関図。会場のハンドアウトや図も工夫されていた展示でした)
この中で一番有名なのが草間彌生、次いで田中敦子、多田美波は公共建築にも携わっていましたね。芥川(間所)紗織、白髪富士子、毛利眞美、宮脇愛子は配偶者が著名人、夫婦共に造形作家だった人たちも・・白髪富士子は夫のサポートのために断筆、女性であるがゆえに、作家として生きていくのが今よりももっと大変な時代だったと思います。ここに名前が上がっている作家たちは全て当時それなりに著名であったと聞き、何故忘れられていたのかと思いましたが、その理由は美術界が男性中心だったことが大きな原因の1つであったそうです。教員、批評家、審査員、作家、美術界の多くが男性中心の世界で女性は注目されていなかったのです。(現代は少しづつ変化してきているとは思いますが、美術界は下位の地位で働くのは女性が多く、まだまだ上の地位は男性が多いとは思います。事実私の携わる美術系の職場も女性ばかりですが、トップは男性陣です。女性は出産をするため出世レースから外れてしまうことが多かったのだと思います。美術作家の世界も同じですね。)
彼女たちが生きた時代は西では「具体美術」、東では「実験工房」、そして「アンフォルメル」が席巻していた時代でしょうか。(「ネオ・ダダ」や「もの派」はこれより少し後の時代です)確かにぱっと思いつく作家の名前は男性ばかり・・実は、こんなに活躍していた女性作家がいたのですね。
そして何故、これらの作家は全て「抽象画」なのか。女性だけでなく男性も・・時代の求める空気が抽象にあったのでしょうか。そこで調べてみたところ、TOKYO ART BEATのサイトで作家の岡田裕子と「アンチ・アクション」の著者中嶋泉の対談を見つけました。(この対談はとても意義深い内容ですので是非読んでみてください)そこにこのような抽象に関するトークがありましたので、引用させていただきました。(下線は筆者が追加)
岡田「私は学生時代、抽象絵画がどういう歴史的背景から生まれたものなのかまでは、あまり教わらなかったんです。だけど、いま思うのは、抽象表現には、出自の豊かさや美術教育を受けた経験に限らず美術を楽しむことができる、民主的な可能性があったのかなということで。」
中嶋「重要な視点ですね。実際、戦後、日本だけでなく世界中で抽象画が同時多発的に生まれた背景には、新しい人間主義や平等への希求があった。とくに日本では、新憲法で男女平等が謳われ、表現の自由を享受できることを女性たちも感じた時代だと思います。」
なるほど、戦後の民主主義の自由平等の謳歌こそが抽象画のエンジンだったのですね。つまりこの展覧会の抽象画は戦後の女性たちの自由への熱い叫び「アンチ・アクション」だったのですね。
関西の皆さん、是非兵庫県美へ、今から70年前の女性たちが力強くアートに向かっていった痕跡を見てきてください。
アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦
2025.12.16 - 2026.2.8
東京国立近代美術館

