必見!今津 景 Kei lmazu 「タナ・アイル」展 - 東京オペラシティアートギャラリー
量、質、ともに充実した今津 景(いまづ けい)の「タナ・アイル」展へ行ってまいりました。イチオシの展覧会です。今津はインドネシア在住のアーティスト。ユニセックスな名前ですが、女性です。まず、作品のサイズ、内容ともに規模が傑出しており、テクノロジーを利用しつつ、社会的なテーマを追及した「クール」な作風が、インドネシアで家庭を持ち子供を育てる中で次第に「女性」や「母性」などの個人的な画題と、インドネシアの「神話」が溶け込んで変容していく様が展開されており、迫力と説得力のある作品群でした。
上の写真は、インドネシアに日本軍が作った軍事拠点の跡地の写真です。ここでインドネシア人に労働をさせていた場所であり、インドネシアにレジデンスで渡った今津はショックを受け、作品として再解釈しました。いきなりこの重たいテーマで幕を開けたことで、インドネシアと深く関わっていこうとする姿勢が示された序章でした。
上の写真は、その次に展開されたインドネシアでかつて作られていたマラリア特効薬、キニーネの工場をテーマにしています。絵画が中心の作家ですが、映像、写真、インスタレーション、油絵、立体彫刻とジャンルを問わない作品が展開されており、まるで今津の脳内を覗いているかのような展示だと感じました。
今津は、ネットで探したアーカイブ画像や写真を用いて、Photoshopや3Dソフトで加工し油絵の下絵を作るそうです。Photshopの「指先ツール」を用いたストローク感のある線や、不思議な構図の絵画が「アートの手法はもう出尽くした」と言われているのにも関わらず、あえて新しい事に挑戦し続ける姿勢を感じさせ、脱帽です。しかも、「なんだか凄いけど、よく分からない・・」ということがなく、彼女の書いた解説はスッと頭に入ってきて、分かりやすいところも素晴らしいと思います。
最近は、AIに絵を描かせ、それをあえてアナログの絵にするという作家もいますが、テクノロジーに使われるのではなく使ってやるぜという姿勢、新しいことにあえて挑戦するという意気込みは賞賛に値します。
美術史からの引用、そして社会的なテーマを経て、近年たどり着いたのは母となったことから、インドネシアの神話、女性であることをテーマに制作をするに至ったそうです。上の写真は、インドネシアの女性神をテーマにした「ハイヌウェレ」という作品です。タイトルの「タナ・アイル」とは、土と水の意味で、2つを合わせると「祖国」を意味するそうです。今頭にとってインドネシアが第二の祖国となっていく様が作品となって展示されているということだと思いました。
写真の他にも、素晴らしい作品が沢山ありましたが、実際に足を運んで実物をご覧になって欲しいのでこの辺で筆を置きたいと思います。とにかく、大変おすすめの展示です。
今津景 Kei lmazu「タナ・アイル / 2025年1月11日[土]〜3月23日[日]
東京オペラシティアートギャラリー