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六本木クロッシング2025:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠 - 3年に一度の日本現代アートアンソロジー

 3年に一度開催される本展は2004年から開催されており、本会で8回目、じつに22年の長きにわたる歴史をもつ日本のアートシーンを総括する展覧会。「時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」というのはインドネシアの現代詩人サパルディ・ジョコ・ダモノの詩の一説。今この一瞬に永遠が宿ることを意味しており、「タイパ」を重視しがちな私たち現代人の時間の捉え方に警鐘をならしているかのようなタイトルです。

展示は多様性に溢れており、日本人作家だけではなく日本在住の作家やレジデンスで尾道にて制作した広島とインドネシアに住むシュシ・スライマン、また地域に根差したアート・コレクティブのアメフラシ、日本以外に住む日系人作家、キャリー・ヤマオカ(クィア女性アーティストコレクティヴ「fierce pussy」のアクティビストとしても有名)、マヤ・ワタナベなど、また、ジャンルもさまざまで「編み物」を通じて地域とつながるソーシャル・エンゲージドの作家、宮田明日鹿や、糸を紡ぐことを重視している、あいちトリエンナーレにも出品していた沖 潤子、ウィーンで結成された日本女性のコレクティブ、Multiple Spiritsは性的マイノリティについて訴え、北澤 潤は日本軍が使っていた戦闘機を取材、インドネシアの地元の人たちと紙と竹ひごをつかって巨大な戦闘機を飛ばし、ズガ・コーサクとクリ・エイトは、ダンボールでつくりあげた地下鉄の駅を美術館の中に出現させる・・といった具合で、「時間」というテーマから見ても「土」「ガラス」「糸」「絵の具」「段ボール」など様々な「時間軸」を持った素材を扱う作品が展示されていたのもテーマとの関連を考えると興味深い。

A.A.Murakami
ゆっくりと不透明・半透明なシャボン玉がでてきて・・
隅に溜まりつつやがて消えていきます
A.A.Murakami

上の2枚の写真は、メインビジュアルにも採用されているのは、儚いテクノロジー(Ephemeral Tech)をテーマにする日英のアート・デュオ A.A.Murakamiによる『水中の月』。物理的な側面がまず目に入ってきますが、実はアンソロピック社のAI制御ロボティックシステムを使って制御しているとのこと。かなりのテック系なのだという意外さがありました。耳をすましてシャボン玉が産まれる音を聴いてみて欲しい作品です。

アメフラシによる作品「Kosyauの壁を移築する」

筆者が気になったのは、上の写真「アメフラシ」という固定メンバーは持たないとする、美術家、画家、文筆家の3人が立ち上げた山形県長井市を拠点にする地域密着型のアーティスト・コレクティブです。上の写真は「kosyau」(「こしらえる」という意味の方言由来の彼らの拠点の名前)の印刷工場だった場所の移築の話が、印刷工場の再現建物の中で彼らの営みが下の写真にあるようなどこかカリグラフィーのような「手描き文字」でインスタレーションとして展開されているのですが、どこか宮沢賢治を思わせる世界観も漂う、廃小屋を使いてベニヤ板に書いているのに「うつくしい世界」でした。住うもの、使うものの心意気次第で世界が美しくなることを見せてくれているように思いました。ところで、アーティスト・コレクティブという名称はすっかり定着した感がありますが、90年代や2000年代には聞かなかったことを思い出します。かつて日本の戦後美術界では大変たくさんのコレクティブがいましたし、歴史は振り子のように動いていくのだなという感慨を持ちました。協働できるというのは素晴らしいことです。今後もこういう地元に密着したグループが各地で増えていくことを願ってやみません。

美しい文字で語られるアメフラシの活動内容

さて、下の作品はシュシ・スライマンの途方もない数の日本の瓦を集めた作品です。

シュシ・スライマン『瓦ランドスカップ』

10年以上も尾道に通って放棄された瓦をあつめて整理した詩と組み合わされた不思議な作品で、尾道の廃屋問題にも光を当てる作品です。この瓦の一部はミュージアムショップで作品として販売されていました。

ズガ・コーサクとクリ・エイトによる六本木駅界隈を再現した作品

ところどころに間奏曲のように展示されている、段ボールによる見事な六本木駅界隈のリアルな風景は「ズガ・コーサクとクリ・エイト」(リンク先ではグループの成り立ちについてのインタビューが読めます)による大型作品。関西の女性二人組によるインスタレーション作品です。コレクティブ名は自嘲的な意味でつけたそうですが、確かな造形力とどこか脱力感のある景色に唸らせられますし、見ていてとても楽しい作品です。

庄司朝美作品
庄司朝美『25.9.17』ほか


出品した計21作家の中で最も直球な平面のファインアートなのは庄司朝美だけではないでしょうか。どこか不穏な空気をまとう人物像が描かれており、時の経過で溶け出したような顔がこちらを見つめてきます。色彩に彼女らしさが出ている気がしました。今後どのように作風が進化していくか楽しみな作家です。

さて、最後に紹介したいのは宮田明日香『手芸部の記録 2025』です。
宮田明日香「手芸部の記憶2025」
編み物で埋め尽くされた空間

どこか懐かしさを感じさせる空間と思ったのは、私自身が自宅で機械編みのかなり大規模な教室を開いていた叔母がいたからかもしれません。彼女は東海圏をベースに編み物で人とむすびつき、コミュニティを作っていく編み物による社会改革を行うアーティストでありアクティビストだと思いました。ご本人はアクティビストと宣言されてはいないようですが、愛知県の港町で続けている「港まち手芸部」は草の根から社会を変革しているといえると思いました。そしてこの会場で「港まち手芸部」の年表を読んでいるときに私は宮田が販売している、プロテスト編み物キットを愛知県立美術館のミュージアムショップで購入していたことに気が付き、急に答え合わせができたような気持ちになりました。このキットは誰がどのような経由で発売しているのだろう・・と思っていたのです。そのキットとは「スイカが編めるキット」。スイカはパレスチナ支援の象徴「私たちの年金がイスラエル支援につかわれている」と書かれた衝撃的な印刷物が同梱されており、結果的にイスラエルに資金を提供している企業のリストも載せられていました。手芸というソフトなイメージがある手法にハードな社会変革のきっかけを潜ませていることに驚きと新鮮さを感じて感動しました。

他にも素晴らしい作品が多数ありましたが、全体的に「社会や多様性と結びつきが強い」作家が選出されていました。それが今の日本の現代美術の1つの大きな潮流であることは間違いなく、ひとりよがりではなくアートで社会とどう絡むのかというのが重要であり、アートと社会の共闘が求められているのだということを痛感しました。

かなりの見応えがあり鑑賞にかなり時間がかかりましたが、作品を見るだけではなく解説も読みたくなるような引き込まれる作品が多く、あっという間に時間が経過してしまいました。

3月29日までです。森美術館は火曜日は閉まるのが早めです。お時間に余裕を持って行ってみて下さい。

What Passes Is Time. We Are Eternal.
会期:2025年12月03日~2026年03月29日
10:00-22:00 (火曜日は17時まで)

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