上野の森美術館美術館にて3月29日まで開催されていた「VOCA展2026」は毎年開催されている日本国内在住の40歳以下の平面作家に与えられる歴史ある賞です。日本各地の美術館学芸員やギャラリー代表の「推し」が1名選出され、そこから大賞と入賞作家が合計5名選ばれていました。この賞は若手に与えられる賞であることから、今後の日本現代美術の動向の1つのインデックスになると言えるでしょう。
全体の所感として筆者がまず気がついたのは「写真単独の作品がない」ことです。これには驚きはありませんでした。写真は今や「ベンヤミンの複製芸術」の時代の一歩先を行き、だれもが気軽に撮影でき拡散できるいわば「超・複製芸術」に変貌し、平面作家は写真や映像を作を構成要素としてカジュアルに取り入れることができるようになりました。このことを実感させるのは5名の受賞作家のうち3名もの作家が「写真や映像」を作品構成要素として部分的に取り入れていることからもわかります。
VOCA賞は戸田 沙也加 『語られざる者の残響』です。
伝統的な女性裸婦像の終焉を左の写真で表し、壊された裸婦像の顔を右手の油彩で表現、サイズが同じであることからも「写真」と「油絵」を等価の表現として扱っていると言えます。左を油絵ではなく写真にしたことで「リアリティ」が生まれ、見えない顔を特徴を際立たせることができる絵画で表現。ジェンダー論を内包しており、色々な意味で見事な匙加減といえると思いました。今後の活躍に期待したいです。
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| VOCA賞2026 戸田沙也加 |
惜しくも5名の受賞作家には入りませんでしたが、個人的に最も惹かれたのは
馬場 美桜子の作品です。
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| 馬場 美桜子『Liminal』 |
大画面で廃棄された畑の野菜を描いています。捨てられし物にも宿る美。緑はこんなにも多様な色なのか・・としばし見入ってしまいました。写真ではお伝えしにくいのですが、現実とは明らかに違う色味で圧倒されつつも魅了されます。
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| 上土橋 勇樹 『Paper English Windows11 ESPRIMO DESKTOP-QCTA4GS A3』 |
上の作品も受賞はしなかったのですが、不思議に目を引かれました。作者の
上土橋 勇樹は滋賀の身体や精神に状態を持つ方々が通う「やまなみ工房」所属の作家です。カリグラフィーやドローイングを描き、その後に離席しピルエットのような回転をし、また着席し描くという制作スタイルだそうです。今回出品されていたのは、手書きではなくWORDを使用し、架空の言葉を入力していくシリーズでした。
上の写真はそのディテールです。クリックすると拡大できるので是非ご覧ください。西洋の名前のようですが、実際には存在しない名前の羅列であったり、年号が入っているものはその年の何かの入賞者なのか?と想像させる作品でした。クリエイティブですが、ある種の鬼気を感じさせます。その鬼気が不思議に胸を打つ作品でした。いわゆる「アウトサイダーアート」と呼ばれる種類の芸術ですが、常々そういう区分はいらないのではないか?と思っておりましたので入賞は喜ばしいことだと思いました。
それではざっと気になった作品の写真を載せて行きます。
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| VOCA奨励賞 | 寺田 健人 『The Gunshot Still Echoes』 |
VOCA奨励賞は沖縄での第二次世界大戦での銃撃痕をリトグラフと薬莢の粉を使って平面を金継ぎのように埋める
寺田健人の作品です。寺田は「写真をメインにした作家」ですが、冒頭でも述べたようにストレートな写真ではなく一捻りした作品となっているのが印象的でした。戦後80年を思わせる作品です。
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| 吉田桃子『茅葺き屋根の下』 |
吉田桃子の作品はヴァーチャルな世界でのアクリル画によるスナップショット。「茅葺き屋根」の下にいるとは思えないところもまた想像力をかきたてられます。彼女はまずは立体模型を作り動画を撮影してから絵画を描くのだそうです。ポートフォリオを見ると、どうやら登場人物は全員男性のように見えました。BL的な視点もあるのかなと思いました。徹底した自分の世界の構築を経てから描くその制作姿勢に脱帽です。
これはVOCA賞だけに感じることではないのですが、全体を通じて社会との連帯、ジェンダー、多様性、戦争、そういった強いテーマが好まれる傾向があり、内面性、私生活、純粋に造形としての強度のみ、というファクターはあまり好まれない時代であるように思う一方、工芸的要素、アウトサイダーアート、そういう枠組みが解体されているのを感じます。
アートや文化の潮流はいつも振り子のように押しては返し、少しずつ変化していくものではありますがここでもその流れを感じることができました。
こちらの
公式サイトで入賞者全員の名前が見れますので是非ご覧ください。